最近、B2Bマーケに取り組む企業が増えてきたわけですが、立ち上げ段階で何から始めていますか?できることから、無料でやれることからといった、ややもするとスモールスタート的なアプローチを取りがちな場合、それって正しいのでしょうか?
そこで、B2Bマーケ組織の立ち上げ段階の際に考えるべきことについて、少し経営よりの視点で平易に理解してもらえるようにまとめてみました。
■まずはスモールスタートで、は正しいのか?
B2Bマーケ組織に限らず、何らかの新組織を立ち上げる場合、企業内活動、すなわちバリューチェーン(VC)に手を加えるわけで、新組織の規模や変更範囲にもよるが、ちょっとした経営・投資的な判断にあたるわけです。
投資・経営判断の際、何らかのビジネス的なゴール実現に向けて、自社の置かれた事業環境を踏まえ、取り得る手段の幅出しを行いつつ、それらの手段の効果、実現性について、次のような観点から評価・取捨選択していきます。
・ビジネスへのインパクトは大きいか、小さいか
・実現性が高い、低いか
・必要なリソースの要求度合いが高いか、低いか
・実現までの時間軸は短期か、中期か
この評価で最重要視されるのはビジネスインパクトではないでしょうか。なぜなら、ビジネスインパクトのみが目的・ゴールであり、その他の項目は手段にすぎないからです。仮に、B2Bマーケティグの組織設置が、冒頭の通り、できることから、無料でやれることからといったアプローチになっていたとしたら、実現性、必要なリソースの要求度合いばかりに着目、すなわち、手段の目的化が懸念されるわけです。
では、具体的にB2Bマーケ組織の立ち上げるよるビジネスインパクトについて、定性的、定量的に仮説を持たないといけないわけですが、具体的にこれに取り組めばよいのでしょうか。
■B2Bマーケ組織をビジネスインパクトから考える
ビジネスインパクトについて、B2Bマーケティングの文脈においては、顧客視点、または自社視点の2つが まず考えられます。
例えば、顧客視点の場合において、広義のマーケティング=顧客にビジネス的な付加価値を提供できる製品・サービスを開発・提供するというスコープの中で、顧客への新たなサービスの開発、それによる将来的な売上・利益が考えられます。一方で、狭義なマーケティング=顧客に自社の製品・サービスを買われる仕組みを構築するというスコープの中では、売上の最大化、または販売に関わる営業・マーケコストの最小化といったビジネスインパクトが考えられます。
ここでは、後者のセールス・マーケティング的な機能組織という前提で、ビジネスインパクトを具体化しています。売上最大化の点では、例えば、既存の営業部門だけでは達成できなかった見込み客へのリーチを実現することで、パイプライン=売上機会の最大化といったことが考えられます。一方、コストの最小化の観点では、マーケティング活動による見込み客の育成を通じた案件リードサイクル(受注までの期間)の短期化、すなわち、案件あたりの営業コストの軽減が考えられます。
このようなインパクトについて、どんどん書き出してみましょう。
・新たなリード獲得による提案機会の最大化
・優良なリードによる営業の受注率の向上
・優良なリードによる受注までのリードサイクル短期化
・失注案件のリサイクリングによる受注率の向上
・営業が潜在的に行っているマーケティング的な活動(例:テレアポ)の不要化
次に、これらのビジネスインパクト、すなわち、リターンを定量化してみましょう。実は欧米ですと、マーケティングコンサルティング会社がこれらの業界別のベンチマークを持っていて、それらを参考にマーケティングのKGI・KPIの目標設定をアドバイスしてくれたりします。これが難しい場合は、他社を経験したマーケター、またはマーケを理解する経営者で仮定していくことになります。
一点、ここで留意すべきは、市場機会の見積もりです。最大限の市場機会がどれぐらいか、自社がアクセスできる市場機会はどれぐらいか、営業のみでアクセスできる、マーケも加わってアクセスできる市場機会について、定量化して不整合が起きないようにしておくべきでもあります。例えば、自社の商材が従業員規模1000名以上を対象にしている場合、日本にはこれが何社あるか、そして、競合製品が入っていない会社はどれぐらいか、などといった仮定です。
最後に、これらのビジネスインパクトについて、実現性、必要なリソースの要求度合いの観点も加味して、マッピングしてみます。例えば、次のようなブログがマッピング手法として参考になります。また、リターンの時間軸については、例えば、1年目、2年目、3年目以降ぐらいのパターンで作ってみるのがよいです。特にB2Bの場合、リードサイクルが半年から1年になりますので、短期、中期は年単位でわけて捉える必要があります。
The Action Priority Matrix
■まとめ : B2Bマーケ組織の設置はちょっとした経営判断
大工さんが設計図がない状態で家を建て始めることがないように、B2Bマーケティング組織の機能、部門KGIが不明確なままに、スモールスタートすることに、個人的には懐疑的です。上記で説明したようなアプローチであれば、少しマーケティングを勉強すれば、もしくは外部のコンサルティングを利用すれば、B2Bマーケ組織の設置前にシミュレーションできるレベルではないでしょうか?
今回はあくまで自社に都合の良い視点でまとめていますが、仮にB2Bマーケ組織を設置することで、顧客の購買体験が劣化するリスクも考えられます。特にマーケと営業の目的・役割・連携がきちんと定義されていない場合、例えば、営業が訪問している見込み客にマーケがアプローチすることといったケースが考えられます。設計図のないスモールスタートはやはり避けたいです。
グローバルIT企業では、急成長する市場環境において、競合より先行した市場シェアの獲得を重要視する、すなわち、時間をマーケティングで買う感覚な為、B2Bマーケが不可欠な存在となっています。つまり、顧客、自社だけでなく、競合を含めた3Cで経営判断しているわけです。このように自社の成長戦略の課題、それに対するオプションの幅出しを行った上で、マーケ部門の要否を判断する経営者が増えていけば、良いと考えます。
繰り返しになりますが、B2Bマーケ組織の設置はちょっとした経営判断です。できることから、スモールスタートというのは、手段の目的化になっている懸念がありますので、再考が必要に感じます。