2020年6月26日に開催された、書籍”インバウンドマーケティング”の著者でもある高広伯彦さんによるウェビナー”INBOUND MKTG 2012>2020”での気付き、学びと今後の応用をざっくりまとめてみました。
■心の片隅で、いつも気になっていたインバウンドマーケティング
私の経歴をざっくりご紹介すると、新卒で外資系ITで営業を10年(直販、ハイタッチ、チャネル営業を経験)、並行して、当時勤めていた企業の事業戦略を自分なりに正しく理解したいという思いがきっかけで週末ビジネススクールに通い、そこでマーケティングに出会いました。そして、2社目で外資系IT企業のBtoBマーケへ転職し、3社目も外資系IT企業、今は米国ハイテク企業という流れで、11年間、BtoBマーケに関わってきました。
2009年にBtoBマーケに転じた西海岸のIT企業はSiriusDecisions のDemand Fallを地で行く感じでした。かなり早い段階で、MA(Eloqua)を導入し、日本でも2012年ぐらいに横展開、MQLをフォローするLead Development RepでのBANT精査・フィールド営業に案件引き渡す協業モデルを構築しました。3社目の外資系ソフトウェアベンダーは典型的なフリーミアムモデルで、デスクトップ版を無償提供し、部門利用への拡張が必要なら有償版を購入いただくモデルで、新規顧客の獲得を行っていました。
外資系ITでは、DemandFallに基づくモデルを構築した数年後にコンテンツマーケティングの流れが来たと記憶しています。MAでナーチャリングをするにもコンテンツが必要だったからですね。それまでコンテンツは製品マーケティングが作成してきたわけですが、ファンネルで見た場合、コンテンツが技術資料でBoFu狙いのものに偏っていて、ToFU層のコンテンツが圧倒的に不足していました。本社に複数の製品ラインナップごとにContent Marketingのキャンペーンマネージャを置いて、外部ライターを活用して、コンテンツを生成していたと記憶しています。
で、マーケティング戦略といいますか、マインドセット的には完全にOutbound志向でした。日々、MQLやSQLの件数と金額、そして、最終的なSQLWon金額を追っていた感じですね。IT企業でマーケ予算もあるので、展示会、年次イベント、製品・業種別セミナー、メディア主催のセミナー協賛、メディアでのコンテンツでのリード獲得といったあらゆる施策を回しながら、リードフォローのテレコールで精査していく感じでした。ですが、マーケの指標として、MQLからSQL、SLQ Wonへの変換率、または投資した予算からのSQLWon金額を測るROIをトラックするわけですが、これらの施策の結果には厳しいものがありました。
そこで 、インサイドセールスのベンダーからの提案も受けて、大手企業は1年ナーチャーをする仕組みを取りました。具体的には3ヶ月に一度電話をし、課題をヒアリングして、それに関連する情報提供を行っていくモデルです。これを回すと、SQL金額ベースでの多くはこの電話での継続的なナーチャリングから生まれるようになりました。私はマーケでインサイドを管理していましたが、ここまで行くと正直にはマーケのナーチャリングではないという、ある種の虚しさを感じたものですし、コンテンツだけとナーチャーすることの難しさを痛感する機会でもありました。
その後、3社目のBIベンダーで、フリーミアムモデルに触れるわけですが(これは2社目に比べるとインバウンドマーケ寄りなのかなと個人的に解釈)、2017年頃にHubSpotが日本のMarketing Directorを募集してるとのことで、一度情報交換をする機会とありました。その際に、書籍「インバウンドマーケティング」を読むことになるわけですが、おそらく、他のセミナー参加者の方と同じように、色々と誤解をしたままだったと思います。例えば、インバウンドはひたすら自社ウェブ・ブログで待つだけで広告は打たない、とか、短期的に成果が出ないから意味がない、といったあるあるですかね。
このあたりのモヤモヤを少しスッキリさせておきたいと思い、筆者自らが講演することもあり、今回のセミナーに参加してみました。
■2012>2020 インバウンドマーケってどうなった?
長編映画の「ベン・ハー」をも上回る、19時スタートの23時終了という4時間に渡る長編セミナーの内容ですが、ざっくりとはこんな感じでしたでしょうか。次回がもしあるなら、やはり、書籍を読んで参加の方が腹落ちは良いと思います(私は参加前に再読しました)。
●インバウンドマーケティング誕生の背景
ウェブ広告の台頭により、メディアBuyで、とにかくInterruptiveな広告がテクノロジーとしては可能になる一方で、GoogleAdwordの登場により情報検索の民主化が進みました。情報の洪水の中では情報の取捨選択(SelectiveAttraction)は進み、Permissinon Marketingという概念も加わり、広告、マーケテイングのLovabilityの引き上げ(嫌われないようにする、受け入れられる、愛されるようにする)には、顧客のコンテキストを理解した上でコンテンツを提供するモデルが必要となってきました。インバウンドマーケティングは、各種のマーケティング手法と同列ではなく、Self-Educated なBuying Journey を支援するマインドセットという定義でした。
個人的には、歴史を学ぶことで、未来・未知への理解、変化への対応能力の強化と個人的に解釈しているので、インバウンドマーケティング、なぜここに至るかの変遷はとても有益でした。マーケが陥りがちなTech中心の発想から、ネットを活用したデータの民主化、ユーザ側の変化・変遷もまとめられていて、腹落ちできました。やはり、Customer (Human)Firstでないと、コミュニケーションは成り立たないですからね。
今回のセミナーでは将来の話までは及ばなかったが、今後クッキー、データプライバシー含めたテクノロジーを取り巻く環境の変化というか、難しさも予想される中、自社のビジネスモデルが間接販売だとしても、この段階で顧客と直接的にインタラクティブにつながるチャネル、プラットフォームの確立・運用は企業活動の生命線のではないか、と再認識した次第です。後述のインバウンドはマーケだけで考えるべきかの話に関連しますが。
●表に出てこないインバウンドマーケティングの方法論
以下の4つの方法論を解説頂きました。
・インバウンドはどこから始める?まずはブログなのか?
・キーワードギャップを確認しよう
・コミュニケーションチャネルの最大化、コンテンツフォーマンスの多様化を意識しよう
・SEOランキングに終わらず、WPO(Web Presense Optimization)を意識しよう
個人的に最も気になったのは、WPOでした。高広さんのNote “SEOのその先+これが本当のコンテンツマーケティング。WPO = Web Presence Optimization という考え方について”にもまとめてらっしゃいますので、詳細は確認頂ければです。簡単に言えば、キーワードの検索の結果として、上位をひとつ取るだけではなく、検索結果における自社関連情報のシェアを取ろうという発想です。これは、Mind Share、BtoBにおけるThought Leadershipへの貢献がかなり効くのだろうなという印象です。ご多分にもれず、自社でもSEOランキングはKPIに組み込まれていますが、WPOの観点でチェックしたことはないので、早速やってみたいです。また、キーワードギャップの派生ですが、外資系あるあるとして欧米のキーワードが直訳日本語ではなく、意訳日本語になっているケースもあり、このあたりも自社のチェックをしたいという気づきがありました。
インバウンドマーケ、何から始める、そして、コミュニケーションチャネルの最大化について、少し留意した方が良いのは、展開するチャネルに自社の見込み客、既存客は情報収集しているのか、でしょうか。縦おば、BtoBでは商材により、SNSでのマーケ活動が成立しない場合もあります。ややもすると、SNSマーケ、メールマーケ、ウェブマーケと時代ごとの流行に流されて、自社の最も効率的なコミュニケーションチャネルの改善が疎かになることは避けたいですね。
●2020年における現状はどうかの対談
最後は、HubSpotでマーケティングもされていた戸栗さん、HubSpotの販売代理店側である田村さんを交えて、で、今、日本でインバウンドマーケでどんな状況なのか、という対談でした。
インバウンドマーケティングはマインドセットであり、その本質・あり方は変わらないことを確認するも、ここでも話題になったのは、マーケティングだけでなく、営業・マーケティング、そして、企業全体がインバウンド志向になってきているのではないか、という点でした。昨今はインサイドセールスが定番モデルになったきたこともあり、私も経験していることですが、コンテンツのダウンロード、ウェビナーの参加=BANT精査をする機会としか捉えられていない様だけど、それって本当に機能するのか、といった話にもなりました。
関連して、参加者から”インバウンドマーケで短期に成果でるの?”という質問に対して、”購買検討5%を引き上げることだけが成果ではない。インバウンドは95%の情報収集段階のSelf-Educated Buying を支援、時間軸異なる、要はターゲットのファンネル、どこ狙うか”、”潜在層へのリーチこそがインバウンドマーケの強いところ”といった示唆がありました。
これは、インバウンドマーケティングの書籍でも触れられている、5%の購買検討層のCVを上げることばかりに全力を向けて、残りの95%の情報収集層に対するコミュニケーション、エンゲージメントが疎かにしているところの話ですね。この95%のToFu(トップオブファンネル)も含めた包括的なマーケティングについて、顧客に嫌われない=顧客のコンテキスト・モーメントにあったやり方で最適化することがインバウンドマーケティングのゴールであることを再確認できました。
これを受けて、自社出来そうなこととして、リードのコンバージョンキャンペーンだけでなく、リードの獲得キャンペーンのROIトラックをやってみようと思います。例えば、1年前の展示会で獲得したリードからMQL、SQLがその後に他のキャンペーンで発生しているか、その場合、どのようなコンテンツが消費されたか、まずは自社の結果から傾向を確認していこうかと考えています。どうしても、商材が多いとひとつひとつの施策において、ジャーニーとコンテンツ、コミュニケーション施策のマッピング、実施結果のレビューが伴わないのですが、外資系でよくいわれる注力キャンペーン(Big Bets)で、これらの志向を強化したいと考えています。
■最後に
インバウンドマーケティングは、あくまでマインドセットであり、手法ではない、それゆえに様々なマーケティング施策が本当にインバウンド志向かを自制する必要があることも盛んにセミナーの中で繰り返されていたのも印象的でした。自制、自戒の問いかけとしてに、”それって、Inboundyか”を問い続けることがTIPSですが、このワードが私の中では流行りそうです。
参加の翌日、いろいろと自分の中で整理して、今回のセミナーの企画から実行までが、インバウンドマーケをそもそも体現していたのでは?という今更の気付きでした。
・インバウンド知りたい?からの企画
・何聞きたい?のモーメント確認
・ビデオ、Slideshare、ゲスト交えたリッチ・コンテンツ
・で、どうだったフォロー
完全にInboundryでした、流石、高広さんです。貴重な機会、ありがとうございました。私は匿名ブロガーで、高広さんにはお会いしたこともないですが、今後もフォローさせていただきます。
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